まだ暗いうちに家を出て、ハーバーブリッジを渡り、お店に着きます。
地下鉄の改札からオージーのワーカーたちが、ゾンビのような顔つきで襲ってきます。
月曜の朝はそれが印象深かったです。
僕の店の前に、ドーナツキングという店がありました。
96年、その店ではカプチーノのテイクアウト(オーストラリアではテイクアウェイという)が当時1ドルで、おまけにシナモンドーナツがもらえました。
一緒に働いていた妹はよくそこで買いました。
僕は隣のアメリカンコーヒーラウンジというカフェの裏メニュー、「ジョヴァニ」というトリプルリストレットラテを買っていました。
当時は1ドル20セントでした。
見ると、ドーナツキングには行列をなしています。
「20セントだけの差で、あれだけ待つ?」
僕は理解できませんでした。
待つ時間があれば、家で食べられると思うのです。
僕もそこで買った事があります。
コーヒーはまずかったです。
シナモンドーナツはとってもシンプル、「無料なのがいいね」くらいのものです。
薄利多売は辛いです。
何かアクシデントがあると、一発でマイナスになります。
10年お店を経営したので、色々と経験しました。
僕のお店の前にはエスカレーターがあり、バス停を降りた人と、駅の改札を抜けた人たちが合流する、絶好の立地でした。
あるクリスマスの日に、駅一帯が水浸しになりました。
その日は僕は日本に帰国しており、兄が対応しました。
店の前には、地上まで伸びる大きな木が植えてありました。
その根っこが、水道管を押し上げて、破裂したそうです。
うちもフロアが水浸しで大変でした。
エスカレーターも故障してしまいました。
そして僕の店の隣にあった、非常階段が使われるようになりました。
完全に変わってしまったのが、人の流れです。
うちの店の前を通る人も減りました。
ドーナツキングは全ての人が合流する、ベストスポットに店を構えていました。
しかしこの事故により、人通りが激減したはずです。
「部品をスイスから調達せねばならない」
いつ復旧するか?待てど暮らせど、永遠に感じるほどでした。
結局、半年以上その状態が続いたのです。
それが直接的な原因かは不明ですが、ドーナツキングは確かそのくらいの時期に閉店しました。
薄利多売は危険だと身にしみました。
うちの店も、もっと強気にやれば良かったと今更ながら思います。
今僕は、デジタル商品しかやろうと思いません。
もちろんパクられるとか、アマゾンの都合に振り回されるリスクなどもあります。
しかしそのリスクなど、リアル店舗と比べたら足元にも及びません。
いや、リアル店舗と比べたらゼロと言っていいほどです。
だからやらない手はないと思うのです。
ちょっと勇気と根気が必要なだけです。