「良いレストランよ、絶対気に入る」
「ふーん」
「良かったら来てね」
彼女は自信たっぷりでしたが、冷めた僕のリアクションでした。
宮木さんの予定がどうか分からないし、あんまり知らない店に入って彼をがっかりさせたくもないし…
ブレイクに入る度、ケニーは挨拶にきました。
「呼んでくれてありがとう、素直に感動したよ」
と彼に伝えました。
思えば、カントリーミュージックのライブを一度でも体験出来たのは感謝でした。
本場ナッシュビルではないけれど、いわゆる作られたショーではないものを体験出来て良かったです。
僕はチェイサーズのような、狭いクラブの親密さが好きです。
よく見えるし、細部まで聴き取れます。
大きい会場は嫌いです。
でも、キャシーがテーブルに来てからは、音楽に集中出来ませんでした。
ケニーが休憩中キャシーと話してくれたのは助かりました。
僕は宮木さんとも話したかったし。
そんなこんなで遅くまでいました。
帰り際にちょっとFriday'sの事も訊いた方がいいかなと
「明日、彼女の働いてる店に行ってみたい?」
「うん、いいよ」
「じゃあキャシー、明日食べに行くかも」
「オーケー、夜働いてるから待ってるね」
という事になりました。
翌日、TGIF (Thank God it's Friday)に行きました。
トーレンス、ホーソンブルヴァードにある大きめのレストラン。
初めて入るので、ちょっと緊張気味の僕でした。
「ヘイ!昨夜はありがとう。本当に助かったわ」
キャシーが僕らを見るなり駆け寄って来て、エスコートしてくれました。
彼女はとても明るくて、愛想がいいので、ウエイトレスとしても素晴らしかったです。
最初まずドリンクのオーダーをしました。
すると前菜がいくつか一緒に運ばれて来ました。
「???」
「大丈夫気にしないで」
僕は何を頼んだのか忘れましたが、その後も頼んでいないのに、色んな料理が出されました。
その度に、僕らはちょっと戸惑った顔で彼女を見るのですが、彼女はウインクだけして立ち去るのです。
最後はデザートも余分にサービスしてくれました。
僕らは当時まだ食べ盛りの21か22歳でした。
出されたものは全て平らげ、もう腹がはち切れそうでした。
お勘定を頼むと、確か何と$10だったか、はっきりは覚えてませんが…
とにかく僕らがオーダーしたものよりも、激安でした。
「ありがとう。沢山サービスしてくれちゃて申し訳ない…」
「それにこんなチャージで、本当にいいの?」
「全然大丈夫、私の方こそありがとう」
チップに感謝の気持ちを表して店を出ました。
死ぬ程食べ、キャシーの手厚いもてなしに感激しました。
思えば前日、ケニーに声をかけられた時は何も期待せず…
むしろ面倒に思った。
けれど予想に反して、ケニーの歌にすごく感動し、キャシーの事でちょっとハラハラできたし、おかげでこんなお礼まで頂きました。
些細な事かも知れないけれど、全く想定外のハプニングでした。
観光ツアーだとこういう展開はまずないでしょう。
宮木さんも大満足でした。
僕としては、親友が日本から来てくれた事だけでも、十分嬉しかったです。
その上、昨夜から色んなエピソードがあり、忘れられない思い出になりました。
彼は、その前にも遊びに来てくれたし、シドニーにも来てくれました。
今も当時の事をよく覚えていて、熱く語ってくれます。
親友と海外の思い出を共有できるのは、本当にありがたいです、僕は幸せです。