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Style

6/1/2018

 
以前シドニーで10年間、日本食テイクアウトの小さなお店を経営してました。
更地から作ったので費用がかかり、店の内装にかけるお金がありませんでした。
これじゃ全く誰の目にも止まらない、そこで何をしたかというと…
クレイジーにラウドな音楽をかけました。
​朝はゴスペルとか教会音楽で浄め、その後はジャズ系をかけました。

今では当たり前ですが、96年当時のシドニーでは珍しかったです。
それはマーケティング戦略でした。
というとカッコいいんですが、実はキッチンで作業する僕も音楽が聞きたかったから、でもありました。

忙しすぎてギターどころでない日々で、せめて聴いて耳を鍛えるしかなかったんです。
ウエスのソロを一緒に歌いながら働く10年でした。

​それはいいとして…


販売に支障があるほどの大音量で、たまに苦情もあるけれどそのスタイルを変えませんでした。
マイルスのFour & moreのようなハードなのを良くかけました。
で感謝な事に店は繁盛でした。
​
​超高速ジャズにせかされるように、売り子たちが超高速にお客をさばく…
​
その姿は、少し殺気を帯びていて美しかったです。

それを眺めるお客も察して、素早くオーダー、お金を握りしめ、すぐに手渡せるよう、売り子達に気を遣うという…妙な緊張感が店を覆っていました。
お客様の人だかりにBGMの範疇をはるかに超えた大音量を浴びせ、待たせる…ちょっとしたサディズムだったかも。異様でした。

特にマルティーノのSunny、グラント グリーンのJan Janなど、それが顕著でした。

「レコードの針、飛んだか?」

「あれ?待たされて変な音楽聞かされて、俺おかしくなっちまったか?」

周りをちらっと見るなどして、

「呪われているのかもしれない…」

​と動揺を隠せず、明らかに挙動不審な、微妙な人々を確認できました。

僕はそれをキッチンから覗き悦ぶという…

​最初は、

「この店大丈夫か?」


「店長アタマおかしいんじゃないか?」

そういう印象だったかもしれませんが、そう思われる事が嬉しかったです。
敢えて疑問を抱かせ、微かな痛みや不快を加える、それで覚えてもらえるからです。
そのうちそれが気持ちよくなり、病みつきになると。

​次第に聴き入る人が増えました。

足でリズムをとっている人など、その空間を楽しんでいる様子が分かりました。
ビジネスエリアだったので常連さんがほとんどで、色んな事を言われるようになりました。

「これ誰?」

「このCDジャケット見せて」

で、売り子が怒りながらキッチンに来て、

「ひとしさん、これ何?めっちゃ忙しいのに…」

と僕はCDジャケットをとって、お客に見せるとそれを眺めながら

「どこで売ってる?」

などと訊かれました。こんなやりとりは本当に良くありました。
しまいには売り子も良く訊かれるアルバムを学習し、自分で対処するまでに洗脳されました。
で、最も訊かれたCDは、ジャズではありませんでした。
​小野リサのボッサカリオカという、ボサノヴァアルバムでした。

当時これはオーストラリアでは入手不可能でした。それを伝えると、

「Oh, no ~ !」

とみんな真剣に残念がってましたよ。
多くの分野でパーソナルスタイルの重要性が言われています。
​
​流行りに飛びつくだけでは、短命に終わる。
みんなを喜ばせようとすると、インパクトが無く結局、誰も喜んでくれない。

スタイルが無いと誰にも覚えてもらえず、選んでもらえるはずもない…
でも、お金をかけなくても工夫すれば、色々できるという話です。
ギリギリのところでやる…お客様の内側に潜む何かに届くには、普通にやっていてもダメですね。
狂っている、と思われるくらいがちょうどいいかと。
​そしてそれを繰り返す、何度もなんども。
​
でも、今はスマホに魂を吸い取られた人たち、記憶力をクラウドに売ってしまった人たちが相手です。
僕が店をやっていた頃よりクレイジーにやらないと、見向きもされないのかもしれませんね。

​さあ、クレイジーにいこう。

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